そうてゃんの発狂五月雨チンジャオランド🌎

ブログでは一人称が僕になります。

🕊‪

Perfumeの『再生』のサビ前の『結局ぜんまいは巻かれた』のぜをげに変換して『結局玄米は撒かれた』と歌ってみたことはある?

3人が路上に玄米をぶちまけてる映像を思い浮かべながら心を込めて歌うのが大切だよ」

彼女と出会ったとき、最初に教わったことだ。

 

滑舌が悪くてな行がや行になってしまうクラスメイトに、彼女は「同じクラスに源さんと宮本さんがいて、源さんを呼ぼうとしたら宮本さんが来るの?」と尋ねていた。

滑舌が悪い彼は、「うん」と言った。

いや、「そう」だったかもしれない。

今となってはそれすらも思い出せないが、僕がその場にいたということだけは覚えている。

その2人が会話をしているところを見たのは、それが最初で最後だったと思う。

 

「鳥になりたいなあ」

それが彼女の口癖だった。

「そう、宙を飛べる鳥。

どうも私には地上は生きづらすぎる。

大空に駆け出して、大気圏も突き抜けて、音の無い世界をあるがままに泳ぎたい」

僕が理由を尋ねると、彼女は決まってこう応えた。

「生身で大気圏に突入したら、焼鳥になっちまいますよ」

僕が茶化すと、彼女はムスッとして「君には浪漫が無いなあ」と小馬鹿にしてくる。

機嫌を取ろうとして、

「じゃあ、僕も宇宙に連れて行ってよ」と言うと、

「うん。

宇宙の外まで、一緒に行ってあげる」

と言って笑ったものだ。

 

思えば、最初から不思議だった。

昨日会って何時間も話していたのに、今日になると彼女の顔が思い出せない。

それどころか名前さえも曖昧になっている。

そもそも、彼女が何処からやって来たのかも知らない。

気が付いたときには僕の隣にいて、気が付いたときには仲良くなっていて、そして気が付いたときにはいなくなっていた。

 

「夢が叶ったんだろうな」

滑舌が悪い彼が、僕に寄越してきたメールの文面

きっと口頭だったら、叶ったのなとだろうなのながやになっていたのだろう

彼は滑舌が悪くてな行がや行になってしまうのだから

そんなことを思いながら、彼への返信を考えてみたけれど、どうも良い言葉が見当たらなくて結局諦めた

もしかしてと思って、彼に彼女の顔や名前や出自を知っているか尋ねてみたが、案の定返事はNOだった

彼は彼女とは一度しか話したことがないのだから、無理もない

そしてそれ以来、彼との連絡は途絶えてしまった

 

「鳥になりたいなあ」

彼女の言葉が脳内で反響した

なぜか彼女の声だけは、しっかり覚えている

特別に可愛い声だとかそういうわけではなかったけど、顔も名前も覚えられないぶん、脳の容量に空きがあったのかもしれない

いや、きっと、顔とか名前はそれほど覚えていなくても良いのだろう

彼女の存在、彼女が教えてくれたこと、それだけが紛れもない事実として、僕の記憶に残っていれば良いのだ

 

 

誰に頼まれたわけでもない昔話を突然語り始めたのは、机を片付けていたらある一枚の切符が見つかったからだ

f:id:Universal_Pink_Unicorn:20210222221741j:image
「両想い切符?」

「そう、両想い切符

電車の切符って、4桁の数字が印字されてるんだけど、その1桁めと4桁めが同じだったら両想い切符

それで間の2桁が、好きな人と両想いになれる確率

切符って降りるときに改札に吸い込まれちゃうけど、窓口で駅員さんに言えば持ち帰らせてくれるの

それをいつもお守りとして持っていれば、好きな人と両想いになれる」

流れるような説明に「へえ」としか言えなかった僕を、彼女はまたしても馬鹿にしたような目付きで見た

 

小学生のときから使い続けた学習机をいよいよ買い換えようと思って、机の引き出しを整理していたら、奥からキッザニアの財布が出てきた

その財布のさらに奥のほうに、彼女から貰ったこの切符が出てきた

長いこと財布に入っていたせいか印字が消えかけているが、下に6996という4桁の数字が見える

「これ、あなたにあげる」

そう言って彼女が切符を渡してきたのは、皆既月食の日だったと思う

今思えば、きっと彼女も僕の名前を覚えていなかったのだろう

「99%

つまり最高の確率で、好きな人と両想いになれる」

それだけ言い残して、彼女は帰ってしまった

「好きな人なんかいるの?」と尋ねようと思っていたのに帰られてしまった、と一瞬残念に思ったが、人に誰が好きかを尋ねるのも野暮だ、と思いなおした

 

それからしばらくして、彼女はいなくなった

不思議なものだ

いつからいなかったのか、いや、いつからいたのか、何も思い出せない

ただ一つ確かなのは、彼女は「今」の何処にも、存在しないということだ

f:id:Universal_Pink_Unicorn:20210222221741j:image

この切符、上に19.12.15という文字が微かに見える

これは、平成19年12月15日の切符だ

しかし、Perfumeが「再生」を出したのは、2019年のことだ

 

「間違えたの?」

あのときと同じ皆既月食の日、僕は宙に向かって尋ねた

「それとも、わざと?」

返事は、無かった

 

彼女はずっと、2019年にいる

それがあのとき、ミスか故意かは最早わからないが、なぜか平成19年に現れた

 

いつの間にか、2021年になり、僕は彼女を追い越してしまった

彼女は「今」は何処にもいないが、きっと2019年に生き続けているのだろう

今の僕と同じエネルギーで、彼女は動いていた

 

ある夜、夢の中で一通の手紙を受け取った

差出人も宛先も不明だった

無地の封筒に、白い紙が一枚だけ折り畳まれて入っていた

開くと、消え入りそうな字で一文だけ記されていた

 

「鳥の女王様に、なってしまったよ」

 

夢が叶ったんだな

きっと、そんなところだろうと思ったよ

目を覚まして、宙に向かって呟いた

夜が明けているのに、薄く月が残っている宙だった

滑舌の悪い彼に伝えようとして、連絡が途絶えてしまったことを思い出した

もしかしたら彼も、同じ夢を見たかもしれない

その日の朝は、泣きながら親子丼を食べた

昼から夜にかけて、合計441本の焼鳥を焼いて食べた

焼鳥を焼いている間のBGMは、Perfumeの「シークレットシークレット」だった

「再生」を聴かなかった理由は、彼女ならきっとわかるだろう

彼女は過去から未来までのPerfumeのあらゆる曲の歌詞を暗記しているから

そしていつか彼女から返事が来るまで、インターネットの海に言葉を流し続けなければ

それが僕の義務だと思った

彼女は鳥になりたいと言った

僕はクレープ屋さんになりたい